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「楢山節考」の著者による短編集。なにか日常に不穏な影を落とす事柄、違和感というのか、焦燥感というのか、そういった微かな負の感情をうまく表すのが得意な作家だ。
楢山節考もそうだが、これはいったいフィクションなのかノン・フィクションなのか。表題作はとくに興味をそそられる。人形について「こけし」という言葉はいっさい出てこないが、あきらかにこれは「子消し」の話。
実は東北に2〜3度訪れた際に「こけし」の由来について聞いたが、いずれもこの短編にあるような事実を確認することはできなかった。訪れた地が古来より比較的裕福な地域であったことも関係するかも知れないが、近隣を含め知らないというような態度である。それは事実を隠しているのか、それとも本来そのような風習はなかったのか。東京にいる門外漢にはわからぬこと。
しかし著者は罪深い。これを読むとさもありなんと人は思ってしまうのではないか。他の作品もそのような思いに囚われる。
第2編、博多人形の「裏」の話もよくできている。粗悪な作りの「裏」ものはネットでも見ることができるが、ここには有名浮世絵職人の春画のように名人による作品について書かれているように見える。ことの真実はいかほど?文字で表わすと、チープなまがいものではなく、なにやら写実主義の極地のような作品に思えるからおもしろい。文字(文学)とは罪深きものよなあ。